美容・サービス職を辞めたいとき|指名客の引き継ぎと講習費請求の考え方

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美容師、ネイリスト、エステティシャン、トリマー。お客様に直接ふれる仕事は、「指名客がいる」「講習費を返せと言われそう」という理由で退職を切り出しにくくなりがちです。この記事では、美容・サービス職に共通する退職の論点を条文にしぼって整理します。

目次

結論:美容・サービス職の退職の早見表

論点原則としての扱い根拠
期間の定めのない雇用(正社員など)の退職いつでも解約の申入れができ、申入れの日から2週間の経過によって雇用が終了する民法627条1項
期間の定めがある契約(3か月契約など)扱いが異なる。やむを得ない事由があるときは直ちに解除できるとされる民法628条
講習費・材料費を「辞めたら違約金」と事前に取り決めること労働契約の不履行について違約金を定め、または損害賠償額を予定する契約は禁止されている労基法16条
退職前の年次有給休暇使用者は労働者の請求する時季に与えるのが原則。ただし事業の正常な運営を妨げる場合は他の時季に与えられる労基法39条5項
指名客の引き継ぎ顧客の引き継ぎ体制を整えるのは事業者の業務。労働者個人にこれを義務づけた法律の規定はない—(契約・就業規則による)

美容・サービス職が辞めにくいのは、あなたのせいではない

美容・サービス職は、施術者個人に指名客がつくことで成り立つ仕事です。そのため一人が抜けると予約と売上が直接動き、引き止めが強くなりやすい構造があります。少人数の店舗が多く、退職を相談できる相手が職場に見つからないことも珍しくありません。ただし、引き継ぎ体制や人員補充を整えるのは事業者の業務であり、これは職場の体制の問題です。

「指名のお客様に迷惑がかかる」をどう考えるか

この職種でもっとも多い引き止めの言葉です。ただ、お客様との契約はあなた個人ではなく店舗(事業者)との間で結ばれています。担当者が変わったときに誰が引き継ぐかを決めるのは、店舗側の運営上の判断です。労働者個人に顧客の引き継ぎを義務づけた法律の規定はありません。

そのうえで、現実的にできることは次の範囲です。ここまでやれば、あなたが果たすべき責任は果たしています。

  • 担当しているお客様の一覧と、次回予約が入っている日を書き出して店舗に渡す
  • 施術履歴(カラー剤の配合、アレルギーの有無、使用した薬剤やジェルの種類、犬種ごとのカット指示など)をカルテに残す
  • 次回予約の変更や担当者の変更の連絡は、誰がどう行うかを店舗に確認し、自分の判断で個別に連絡しない

最後の点は重要です。顧客名簿は店舗の情報であり、個人の連絡先を使って独自に案内すると、後から顧客の引き抜きだと主張される火種になります。退職後の営業について取り決めがある場合は、雇用契約書と就業規則を先に確認してください。

講習費・材料費の返還を求められたとき

「3年以内に辞めたら講習費を全額返してもらう」「使った材料費を退職時に精算する」といった取り決めがある職場があります。ここで関係するのが労働基準法16条です。

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。(労働基準法16条)

16条が禁じているのは、あらかじめ違約金や賠償額の金額を決めておくことです。実際に生じた損害の賠償請求そのものを一律に禁じた規定ではないため、「請求はすべて違法」と単純化することはできません。判断が分かれやすいのは、その費用が業務命令による研修の費用なのか、本人が希望した費用を会社が立て替えたものなのかという点です。契約書を持って公的な相談窓口に確認するのが確実です。

また、その費用を給与から差し引かれている場合は、賃金の支払い方の問題にもなります。

賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。(労働基準法24条1項・抜粋)

同項ただし書は、法令に別段の定めがある場合や、労働者の過半数で組織する労働組合等との書面による協定がある場合に、賃金の一部を控除して支払うことができると定めています。給与明細に身に覚えのない控除がある場合は、その根拠を確認してください。損害賠償を持ち出された場合の考え方は退職で損害賠償を請求されるのかでも整理しています。

競業避止条項(同じ地域で働けない、という取り決め)

美容・サービス職では「退職後2年間、半径◯km以内で同業に就かない」といった条項が雇用契約書や誓約書に入っていることがあります。この種の条項の有効性は、裁判例の積み重ねによって個別に判断されており、争いのある論点です。一般には、制限される期間・地域・職種の範囲や代償措置の有無などを総合して判断されると解されています。書かれているから直ちに全面的に有効、とも言えません。

実務上まずやることは、次の3つです。

  • 雇用契約書・誓約書・就業規則に、競業避止に関する条項があるかを確認する(写しを手元に保管する)
  • 独立や同業への転職を予定している場合、その計画を退職の申し出と同時に自分から話す必要はない
  • 条項を理由に強く出られたときは、自己判断で約束せず、弁護士または公的な相談窓口に条項の写しを見せて相談する

退職までの手続きで押さえること

退職の申し出

期間の定めのない雇用であれば、退職の意思表示から2週間の経過によって雇用は終了します。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。(民法627条1項)

就業規則に「退職は1か月前までに申し出ること」と書かれている職場は多く、この規定と民法627条1項の関係については見解が分かれています。実務としては、まず就業規則の期間に沿って申し出るほうが手続きが円滑に進みます。個人サロンや小規模店では就業規則そのものがない場合もあり、その場合は雇用契約書の記載を確認してください。

シフトと有給休暇

予約が先の日付まで入る仕事のため、退職日はシフト表の確定範囲と重なります。申し出のタイミングでシフトがどこまで確定しているかを把握しておくと、退職日の調整がしやすくなります。年次有給休暇については、労基法39条5項が「労働者の請求する時季に与えなければならない」と定めています。ただし書きの時季変更権はありますが、退職日以降には変更先の時季が存在しないため、退職直前の消化に対して行使できる余地は限られると一般に解されています。拒まれた場合の対応は有給休暇を拒否されたときの対処法を参照してください。

貸与品と私物

この職種は貸与品と私物が混ざりやすいのが特徴です。制服・名札・店舗の鍵・予約システムのアカウントは返却または権限の削除が必要です。一方、自費で購入したハサミ・ブラシ・ニッパー・筆などの道具は自分の資産です。誰の負担で買ったものかが曖昧な道具については、退職を申し出る前に領収書の有無を確認しておくと揉めにくくなります。私物の扱いは会社に置いた私物の回収にまとめています。

職種によって異なる事情

同じ美容・サービス職でも、契約の形や資格の扱いによって注意点が変わります。

  • 美容師・理容師:免許は個人に属し、勤務先とは切り離されています。詳しくは美容師が辞めたいときで扱っています
  • ネイリスト・エステティシャン:講習費や商材費の取り決めが契約書に入っていることが多く、上記の労基法16条の論点が出やすい職種です
  • トリマー・動物病院スタッフ:少人数の職場で「命を預かっている」責任を理由に引き止められることがありますが、施設の体制を維持する責任は事業者にあります
  • 業務委託として契約している場合:面貸し(シェアサロン)や歩合のみの契約では、労働基準法が原則として適用されない場合があります。契約書の表題ではなく、勤務時間の指定や指揮命令の有無で実態が判断されるため、まず契約書の確認が必要です

個別の職種の記事は順次公開予定です。

退職代行を使う場合に確認すること

店長が経営者を兼ねている職場では、退職の申し出が受け取られないまま話が進まないことがあります。退職代行を検討する場合、運営主体によってできることの範囲が違う点は先に把握しておいてください。

弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。(弁護士法72条)

条文に「交渉」という語はありませんが、代理や和解その他の法律事務に交渉が含まれると一般に解されています。ただし書きの「他の法律に別段の定めがある場合」があるため、労働組合が団体交渉として行う場合は位置づけが異なります。講習費の返還請求や未払い賃金など、金銭の争いが起きそうな場合は、その争いに対応できる主体を選ぶことが必要です。詳しくは退職代行の運営主体3類型の違い退職代行を使うときの流れを確認してください。引き止めへの対応そのものは退職を引き止められたときの対処法にまとめています。

なお、心身の不調が続いている場合は、退職の手続きと並行して医療機関の受診を検討してください。働く人のメンタルヘルスについては厚生労働省の「こころの耳」に相談窓口の情報がまとまっています。

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参考文献

最終更新:2026年8月

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この記事を書いた人

深町 悠のアバター 深町 悠 フリーランスライター

フリーランスライターとして複数のメディアで執筆に携わる。退職代行データベースでは、記事を作成する際に法令や厚生労働省の公開情報など一次情報にあたることを徹底している。

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