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結論:引き止めに応じる法的義務はない
退職の意思表示をしたあと、会社が引き止めてくることに法的な効力はありません。期間の定めのない雇用契約であれば、民法627条により退職の申し入れから2週間が経過すれば雇用契約は終了し、会社の承諾は不要です(東京地判昭51.10.29・高野メリヤス事件など)。
早見表としてまとめると、以下の通りです。
| 引き止めパターン | 応じる義務 | 基本の対応 |
|---|---|---|
| 昇給・昇進の提示 | なし | 退職理由が待遇だけか整理してから判断 |
| 情に訴える | なし | 感謝は伝えつつ意思は変えない |
| 脅し(不利益扱いの示唆) | なし | 発言を記録し労基法違反の可能性を認識 |
| 保留要求・先延ばし | なし | 退職日を明言し書面で意思表示 |
| 無視・退職届を受け取らない | なし | 内容証明郵便で意思表示を記録 |
なぜ引き止めに応じる義務がないのか
民法627条は、期間の定めのない雇用契約について「各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる」と定めています。申し入れから2週間が経過すれば雇用は終了し、会社の承認や許可は要件になっていません。
就業規則に「退職は1ヶ月前までに会社の承認を得ること」といった規定があっても、民法627条に反する部分は無効とされています。高野メリヤス事件(東京地判昭51.10.29)では、民法627条の予告期間は使用者のために延長できず、退職に会社の許可を要するとすることもできないと判断されました。つまり、一般には就業規則よりも民法の規定が優先すると解されています。
典型5パターンと返答例
引き止めには、いくつかの典型パターンがあります。冷静に切り返すための考え方を整理しました。
1. 昇給・昇進を提示される
「給与を上げるから」「役職を用意するから」といった条件提示です。応じるかどうかは自由ですが、退職を考えた理由が待遇面だけなのか、人間関係や働き方など別の要因もあるのかを切り分けてから判断するのが有効です。
2. 情に訴えられる
「あなたがいないと現場が回らない」「今抜けられると困る」という説得です。感謝の気持ちを伝えることと、退職の意思を変えることは別問題です。責任感につけ込まれて意思が揺らがないようにしましょう。
3. 脅しに近い発言をされる
「辞めるなら評価を下げる」「今後の紹介状は書かない」といった発言は、内容によっては不当な圧力にあたります。発言は日時とともにメモや録音で記録しておくと、後にトラブルになった際の証拠になります。
4. 保留を求められる・先延ばしにされる
「後任が決まるまで待ってほしい」「繁忙期が終わってから」という引き延ばしです。退職日は自分の意思表示で決まるものなので、希望日を明確に伝え、口頭だけでなく書面やメールでも意思表示を残すことが重要です。
5. 無視される・退職届を受け取ってもらえない
退職届を受け取らない、話を聞いてもらえないという対応です。退職の意思表示は相手に到達すれば効力が生じるため、受理されなくても退職は成立します。確実な方法としては内容証明郵便で意思表示を送るのが有効です。
カウンターオファーを承諾する前に知っておきたいこと
条件提示(カウンターオファー)を受け入れる前に、統計的な傾向も知っておくと判断材料になります。エン・ジャパンが人材紹介コンサルタントを対象に行った調査では、カウンターオファーによって転職を思いとどまらせる成功率は約24%にとどまり、企業の6割以上が「成功率は20%以下」と感じているという結果が出ています(出典:エン株式会社プレスリリース)。
またカウンターオファーを承諾した人材のうち、1年以内に転職活動を再開する割合が約39%にのぼるという調査結果もあります。待遇面が改善されても、退職を考えた根本の理由(評価のされ方、働き方、人間関係など)が解消されるとは限らないためと考えられます。カウンターオファーを受けるかどうかは、条件面だけでなく「退職を考えた理由が解消されるか」を軸に検討することをおすすめします。
それでも退職が進まないときの対処法
意思表示をしても引き止めが続く場合は、次の手順で対応します。
まず、退職の意思表示を内容証明郵便で送付します。到達した事実と日付が記録として残るため、後から「聞いていない」と言われるトラブルを防げます。
会社側から損害賠償をちらつかせられた場合、労働基準法16条が禁じているのは、労働契約の不履行について違約金や損害賠償額をあらかじめ定めておくことです。実際に生じた損害の賠償が認められるかどうかは、損害の発生と因果関係を会社側が立証できるかによって個別に判断されます。脅しに応じて退職を撤回する必要はありません。
自分で対応するのが難しい、または心身の負担が大きい場合は、退職代行の利用も選択肢になります。特に会社との交渉が必要になりそうなケースでは、労働組合が運営する退職代行や弁護士が対応する退職代行が向いています。サービスの選び方は退職代行の選び方まとめ、即日で動きたい場合の具体的な流れは退職代行の利用の流れで解説しています。
よくある質問
何度も引き止め面談を求められたら?
意思が変わらないことを簡潔に伝え、面談の日時と内容を記録しておきましょう。回数が重なって心身の負担が大きい場合は、「退職日は◯月◯日で変わりません」と書面やメールで回答する形に切り替えるのも選択肢です。記録は、後にトラブルになった場合の証拠にもなります。
カウンターオファーを検討している間に、退職を撤回できますか?
意思表示は、その通知が相手方に到達した時から効力を生じます(民法97条1項)。退職の意思表示が会社に到達した後の一方的な撤回は難しいと一般に解されているため、条件提示を検討したい場合は、退職を伝える前に考える時間を確保するか、会社側と合意のうえで進めるのが安全です。
「有給は使わせない」と言われたら?
年次有給休暇は、法律上の要件を満たせば労働者が請求する時季に取得できます(労働基準法39条5項)。同項ただし書の時季変更権は「他の時季に与える」ための制度なので、退職日以降に他の時季が存在しない退職直前の消化については、行使の余地が限られると一般に解されています。詳しくは有給消化を拒否されたときの記事で整理しています。
脅しに近い発言は、どこに相談できますか?
都道府県労働局や労働基準監督署内に設けられている総合労働相談コーナーで、費用をかけずに相談できます。相談の際は、記録しておいた発言の日時・内容のメモがあると状況を伝えやすくなります。
退職代行を使えば引き止めは完全になくなりますか?
連絡窓口が業者に一本化されるため、本人が引き止めの説得を直接受け続ける状況は避けやすくなります。ただし、会社から本人へ連絡が来る可能性を完全になくす法的な仕組みはありません。運営主体ごとの対応範囲の違いは退職代行の選び方まとめをご覧ください。
参考文献
- 民法627条
- 労働基準法16条
- 東京地判昭51.10.29(高野メリヤス事件)
- エン株式会社「カウンターオファーに関する調査」プレスリリース(出典)
最終更新:2026年8月

