保育・教育職が辞めたいとき|年度途中退職の法的な進め方と手続き

※本記事にはプロモーションが含まれます。

保育士・幼稚園教諭・教員・塾講師など、教育と保育の現場で働く人が退職を考えるとき、最初につまずくのが「年度の途中で辞めていいのか」という点です。この記事では、立場ごとに適用される法律の枠組みを整理し、年度途中で退職する場合の実務的な段取りをまとめます。

目次

結論早見表

立場退職の枠組み根拠となるルール確認先
公立学校の教員任命権者への退職願と承認地方公務員法および自治体の条例・規則所属の教育委員会・人事担当
公立保育園の保育士(正規職員)任命権者への退職願と承認地方公務員法および自治体の条例・規則市区町村の人事担当
私立学校の教職員申し入れから2週間で終了(期間の定めのない雇用の場合)民法627条1項就業規則・雇用契約書
私立保育園・認定こども園の職員申し入れから2週間で終了(期間の定めのない雇用の場合)民法627条1項就業規則・雇用契約書
学習塾・予備校の講師や職員申し入れから2週間で終了(期間の定めのない雇用の場合)民法627条1項就業規則・雇用契約書

契約期間が定められている有期雇用や、パート・アルバイトの場合は枠組みが変わります。雇用形態から確認したい場合は「パート・アルバイトの退職」もあわせてご覧ください。

教育・保育の仕事が辞めにくいのは、あなたのせいではない

教育と保育の職場は、担任制と年度単位の体制で運営されています。年度途中に欠員が出ると、クラス編成や担任の割り振りをやり直す必要が生じるため、「子どもたちのために」という言い方で引き止めが強くなりやすい構造があります。国が定める職員配置の基準を満たす責任、そして欠員が出たときに人を確保する責任は、事業者や自治体の側にあります。辞めにくさを感じるのは、あなたの責任感が足りないからではなく、代替の効きにくい体制で仕事が組まれているためです。

年度途中で辞めるときの現実的な段取り

年度途中の退職は、次の順序で進めると整理しやすくなります。

  • 1. 自分の立場を確認する:公立か私立か、正規職員か会計年度任用職員か、期間の定めのない雇用か有期雇用かを、雇用契約書や辞令で確認します。ここを取り違えると、以降の手続きがすべてずれます。
  • 2. 就業規則と条例・規則を読む:退職の申し出時期について定めがあるかを確認します。私立の場合は就業規則、公立の場合は自治体の条例・規則が該当します。
  • 3. 退職希望日と伝える相手を決める:伝える相手は原則として直属の管理職です。園長・校長・教頭など、組織の指揮命令系統に沿った相手を選びます。
  • 4. 意思を書面で残す:口頭だけだと「聞いていない」と扱われることがあります。退職届を提出し、控えを手元に残しておくと後の確認がしやすくなります。
  • 5. 引き継ぎと年休の取得を組み立てる:残っている年次有給休暇の日数を確認し、引き継ぎの期間と重ならないように調整します。

心身の不調が続いている場合は、退職の段取りより先に医療機関へ相談することを検討してください。働く人のメンタルヘルスについては、厚生労働省の情報サイト「こころの耳」(https://kokoro.mhlw.go.jp/)でも相談窓口が案内されています。

公立学校の教員だけは法体系が違う

公立学校の教員と、公立保育園の正規職員は地方公務員です。民間の労働者に適用される民法627条1項ではなく、地方公務員法と、各自治体が定める条例・規則にもとづいて退職の手続きが進みます。

実務上は、任命権者(教育委員会や市区町村長)に退職願を提出し、承認を受けるという運用が一般的です。承認の時期や必要な申し出期間は自治体ごとに異なるため、所属先の人事担当部署に確認するのが確実です。同じ「教員」でも、公立と私立でルートがまったく異なる点は押さえておいてください。

公立教員の詳しい事情は「教員が辞めたいとき」で整理しています。

私立・保育園・学習塾は民法のルールで動く

私立学校の教職員、私立保育園や認定こども園の職員、学習塾や予備校の講師・職員は、民間企業で働く人と同じ立場です。期間の定めのない雇用であれば、民法627条1項が適用されます。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。

民法627条1項

条文上は、退職を申し入れてから2週間の経過で雇用契約が終了します。就業規則に「退職は3か月前までに申し出ること」といった定めがある場合、どちらが優先するかについては見解が分かれており、一般には民法の規定が優先すると解されていますが、争いのある論点です。実際には、就業規則の定めに配慮しつつ、双方が合意できる退職日を設定する形で進むことが多くなります。

退職前の年次有給休暇の扱い

退職前に残った年次有給休暇を使いたい、という相談は教育・保育の現場でも多く聞かれます。年休の時季については、労働基準法に次の定めがあります。

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。

労働基準法39条5項

ただし書にある使用者の権限は「他の時季に与える」ことができるというものです。退職日より後には与えるべき時季が存在しないため、退職直前の年休取得に対してこの権限を行使できる余地は限られる、と一般に解されています。もっとも、いつからいつまで取得するかは早めに書面で申し出ておくほうが、行き違いを避けられます。

保護者対応・担任業務の引き継ぎで押さえること

年度途中に担任が交代する場合、保護者への説明が必要になりますが、その説明を組み立てる責任は組織側にあります。個人が単独で対応する場面をつくらないよう、次の点を確認しておきます。

  • 保護者への伝え方は職場と揃える:退職の理由を詳しく説明する義務はありません。「一身上の都合」で足ります。誰がいつ伝えるかを管理職と決めておきます。
  • 引き継ぎ書を残す:クラスの状況、配慮が必要な子どもへの対応、進度、行事の準備状況などを書面にまとめます。書面が残っていれば、退職後に問い合わせを受け続ける状態を避けられます。
  • 記録類の所在を明確にする:指導要録、健康観察の記録、保護者との連絡記録などは組織の資料です。どこに保管したかを引き継ぎ書に明記します。
  • 退職日までの勤務は通常どおり行う:退職を申し出た後も、退職日までは労働契約が続きます。引き継ぎを丁寧に行っておくことが、結果として自分を守ります。

よくある引き止めと考え方

年度途中の退職を申し出たとき、次のような言葉を受けることがあります。

  • 「子どもたちがかわいそう」「クラスが混乱する」
  • 「年度末まで待ってほしい」「せめて行事が終わるまで」
  • 「代わりの先生が見つからない」「他の職員の負担が増える」
  • 「途中で辞めるなら損害賠償を請求する」

前の3つは、いずれも人員配置の問題です。配置基準を満たす職員をそろえる責任は事業者と自治体にあり、その負担を個人が引き受けなければならない法的な根拠はありません。

4つ目については、労働基準法に次の定めがあります。

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。

労働基準法16条

この条文が禁じているのは、「途中で辞めたら◯万円」といったように、あらかじめ違約金や賠償額を決めておく契約です。実際に生じた損害についての賠償請求そのものを一律に禁じた規定ではありませんが、通常の手順を踏んだ退職で使用者側の請求が認められるのは限定的な場面と考えられています。金額を示して迫られた場合は、その場で応じず、労働基準監督署や弁護士など第三者に相談してください。

引き止めへの具体的な対応は「引き止めへの対応」でまとめています。

職種別の詳しい事情

同じ教育・保育の分野でも、職種によって論点が変わります。あてはまる記事をご覧ください。

退職代行を使う場合の注意

職場に直接伝えることが難しい状況では、退職代行の利用を検討する人もいます。使う場合は、依頼先の運営主体を必ず確認してください。

  • 運営主体で対応できる範囲が変わる:弁護士・労働組合・民間事業者の3種類があり、それぞれ根拠となる法律が異なります。違いは「退職代行の運営主体の違い」で整理しています。
  • 条件の交渉が必要かを先に見極める:退職日の調整や未払い賃金の請求など、条件の交渉を伴う場合、民間事業者がこれを行うことは弁護士法との関係で問題になると一般に解されています。交渉が必要な見込みがあるなら、最初から弁護士や労働組合を検討するほうが確実です。
  • 公立の教職員は手続きが異なる:地方公務員は自治体の条例・規則にもとづく手続きが必要になるため、対応可否を事前に確認してください。
  • 依頼から退職までの流れを把握する:「退職代行の流れ」で、依頼後に何が起きるかを確認できます。

似た立場の人へ

参考文献

最終更新: 2026年7月

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

深町 悠のアバター 深町 悠 フリーランスライター

フリーランスライターとして複数のメディアで執筆に携わる。退職代行データベースでは、記事を作成する際に法令や厚生労働省の公開情報など一次情報にあたることを徹底している。

目次