人事・労務担当を辞めたいとき|自分の退職手続きと引き継ぎの進め方

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人事・労務の担当者は、社内で退職の手続きを進める側にいます。就業規則の中身も、離職に伴う書類の流れも知っている立場だからこそ、自分が辞めるとなると勝手が違って戸惑うことがあります。この記事では、人事・労務の人が退職を考えたときに整理しておきたい法的な前提と、引き継ぎ・権限の返却・相談先を順に見ていきます。事務職全体の共通事項は事務職を辞めたいときにまとめています。

目次

結論:先に押さえておきたいこと

気になること基本的な考え方確認先・根拠
いつ辞められるのか期間の定めのない雇用であれば、解約の申入れの日から2週間の経過によって雇用が終了する民法627条1項
自分の退職手続きは誰がやるのか手続きを担う人を用意するのは会社の側。担当者が不在になることは退職の可否を決める基準ではない(条文ではなく、会社と労働者の役割の整理)
「後任が育つまで」と言われた採用と育成は会社の側で行うこと(同上)
引き継ぎ不足で賠償と言われたあらかじめ違約金や賠償額を決めておく契約は禁止されている労働基準法16条
退職前に有給を使いたい労働者が請求した時季に与えるのが原則。ただし例外の定めがある労働基準法39条5項

人事が辞めにくいのは、あなたのせいではない

人事・労務は、社員の退職手続きを受け付ける側であると同時に、社内の相談窓口を任されていることが多い部署です。そのため、自分が辞めたいと思ったときに、手続きを渡す相手も相談する相手も社内に見当たらない、という状態が起こりやすくなります。ただし、担当者が抜けても回る体制をつくるのは会社の役割であり、これはあなたの責任ではなく、職場の体制の問題です。

「あなたが辞めたら手続きが回らない」と言われたとき

期間の定めのない雇用契約であれば、退職の申入れについて民法に次の定めがあります。

当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。(民法627条1項)

この規定は、社内に手続きを担える人が残っているかどうかを条件にしていません。人事機能をどう維持するかは会社が判断することであり、それが決まっていないことを理由に退職の申入れが無効になるわけではないと一般に解されています。

就業規則に予告期間が定められている職場も多く、人事担当者はその条文を誰よりも把握している立場にあります。ただし、就業規則の予告期間と民法627条1項のどちらが優先するかについては見解が分かれており、一律に断定することはできません。実務としては就業規則の期間を目安に日程を組み、話が進まない場合の考え方として民法の規定を知っておく、という順番が現実的です。引き止めへの対応は退職の引き止めへの対処で整理しています。

自分の退職手続きを自分で処理する立場の整理

人事・労務の担当者が退職する場合、社会保険や雇用保険に関する手続き、給与計算の締め、書類の交付といった実務を、自分が担ってきた立場のまま進めることになりがちです。ここで押さえておきたいのは、こうした手続きは会社の業務として仕組みを整えるべきものであり、担当者個人が退職後まで責任を背負い続ける性質のものではない、という役割の整理です(個々の届出義務の法律上の位置づけはここでは扱いません)。

そのうえで、実務的には次のように分けて整理しておくと混乱が減ります。

  • 退職日までに自分が終わらせるもの(担当している社員の手続き、進行中の案件)
  • 退職日以降に会社側で行われるもの(自分の離職に伴う書類の交付など)
  • 誰が引き継ぐか決まっていないもの(上長に判断を仰ぐ対象として一覧にする)

自分の離職に関する書類を自分で用意することに抵抗がある場合は、担当を外してもらえないか上長に相談する方法もあります。受け取る書類そのものについては離職票の受け取り方退職後にやることにまとめています。

引き継ぎで残すべきもの

人事・労務の業務は、年間の決まった時期に発生するものと、都度の判断が必要なものが混在します。手順書だけでなく、判断の背景を残しておくと後任が迷いにくくなります。

  • 年間の業務カレンダー(いつ、何を、どこへ提出するか)
  • 過去に個別対応した事例と、そのときの判断の根拠
  • 社会保険労務士・顧問先・関係機関の連絡先と、どの用件をどこに聞くかの対応表
  • 就業規則や社内規程の改定履歴と、改定したときの経緯
  • 各種データの保管場所と、閲覧できる範囲の設定

引き継ぎの分量や形式は法律で決まっているものではなく、完璧な資料をつくることが退職の条件になるわけでもありません。ただ、書面やデータの形で残しておけば「引き継ぎをしなかった」という主張に対して事実で答えられます。「引き継ぎが不十分なら損害賠償を請求する」と言われた場合は、次の条文が関係します。

使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。(労働基準法16条)

この条文が禁じているのは、あらかじめ違約金や賠償額を決めておくことです。実際に生じた損害の賠償請求そのものを一律に禁じた規定ではないため、「損害賠償は必ず違法」とは言い切れません。金額を示して請求された場合はその場で応じず、労働基準監督署の総合労働相談コーナーや弁護士に相談してください。詳しくは退職時の損害賠償請求にまとめています。

個人情報とアクセス権限の返却

人事・労務は、社員の個人情報や給与に関するデータを扱う立場です。返却物にはパソコン・社員証・鍵に加えて、人事システムや給与システムのアカウント、共有フォルダの閲覧権限、社外サービスの管理者アカウントなどが含まれます。

これらは、いつ・誰に引き渡したかを記録に残しておくことが、後から所在を尋ねられたときに自分を守る材料になります。紙の書類も同じで、保管場所と引き渡した相手を控えておくと安心です。私物と会社の貸与品の切り分けは私物と貸与品の扱いを参照してください。

有給休暇と退職日の設計

年次有給休暇について、労働基準法には次の定めがあります。

使用者は、前各項の規定による有給休暇を労働者の請求する時季に与えなければならない。ただし、請求された時季に有給休暇を与えることが事業の正常な運営を妨げる場合においては、他の時季にこれを与えることができる。(労働基準法39条5項)

ただし書きにある「他の時季に与える」ことを時季変更権と呼びますが、退職日より後には与えるべき他の時季が存在しないため、退職直前の年休の請求に対してこの権利を行使できる余地は限られると一般に解されています。人事担当者は他の社員の年休を管理する側にいるため、自分の分を後回しにしやすい立場でもあります。残日数を確認したうえで、退職日から逆算して申請してください。断られた場合の考え方は有給休暇を拒否されたときにまとめています。

社内に相談先がないとき

相談窓口を担当している人ほど、自分の悩みを社内で話しにくくなります。社外の窓口としては、労働基準監督署の総合労働相談コーナーや、厚生労働省の「こころの耳」があります。心身の不調が続いているときは、まず医療機関の受診を検討してください。

退職の意思を自分で伝えることが難しい場合、退職代行を使う選択肢もあります。ただし運営主体(弁護士・労働組合・民間企業)によって対応できる範囲が異なるため、未払い賃金の請求など交渉が必要になりそうな事情がある場合は、依頼する前に運営主体ごとの違い料金データベースを確認してください。辞めるか続けるかを決めるのは、あくまであなたです。

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参考文献

最終更新:2026年8月

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この記事を書いた人

深町 悠のアバター 深町 悠 フリーランスライター

フリーランスライターとして複数のメディアで執筆に携わる。退職代行データベースでは、記事を作成する際に法令や厚生労働省の公開情報など一次情報にあたることを徹底している。

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