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結論
ノルマの未達を理由に給与から天引きされたり、自腹で商品を買い取らされたりする慣行(いわゆる自爆営業)は、法律上問題のある扱いです。「ノルマがきついから」という理由で退職すること自体に後ろめたさを感じる必要はありません。期間の定めのない雇用であれば、民法627条1項により、退職の申し入れから2週間で雇用契約は終了します。
| 気になっていること | 法律上の整理 | 根拠・確認先 |
|---|---|---|
| ノルマ未達だと辞められないのか | 期間の定めのない雇用なら、申入れから2週間の経過で雇用は終了する | 民法627条1項 |
| 未達を理由に給与から差し引かれている | 賃金の全額払いの原則との関係が問題になりうる | 労働基準法24条1項 |
| 「未達なら1件いくら負担」と決められている | 違約金や賠償額をあらかじめ定める契約は禁じられている | 労働基準法16条 |
| 有給休暇が残っている | 労働者が請求する時季に与えるのが原則(条文にただし書あり) | 労働基準法39条5項 |
| 契約期間の定めがある/業務委託である | 適用される枠組みが変わる | 契約書の記載 |
営業職が辞めにくいのは、あなたのせいではない
営業職は成績が個人名で集計され、数字がそのまま人物の評価として扱われる職場が少なくありません。担当顧客も個人に紐づくため、自分が抜けたときの影響を自分の落ち度のように感じやすい構造があります。ただ、目標をどこに置くかも何人で担当するかも決めているのは会社です。これはあなたの問題ではなく、職場の体制の問題として切り分けてかまいません。
まず確認すること|契約の形と契約期間
同じ「営業」でも契約の形は分かれ、進め方も変わります。期間の定めがなければ民法627条1項が適用されます。
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申入れをすることができる。この場合において、雇用は、解約の申入れの日から二週間を経過することによって終了する。
(民法627条1項)
条文は、ノルマの達成状況や後任の有無を条件にしていません。就業規則の「1か月前までに申し出ること」といった定めと民法の規定の関係をどう考えるかは、見解が分かれる論点です(退職の申し出から2週間のルール/退職までの流れ)。
契約期間が定められている場合、期間途中の退職は民法628条の「やむを得ない事由」の問題になります。何がこれにあたるかは条文になく、個別の事情で判断されます。なお契約期間が1年を超える有期労働契約には、初日から1年を経過した日以後は申し出ればいつでも退職できる旨の定めがあります(労働基準法附則137条。1年以下の契約の反復更新は対象外)。
歩合のみの報酬体系や、代理店・個人事業主としての契約の場合、契約書上は業務委託契約になっていることがあります。その場合、民法627条1項や労働基準法は原則として適用されません。ただし判断は実態によるため、契約の相手方・報酬の決まり方・勤務時間の指定の有無を整理して相談窓口へ持ち込んでください。
ノルマ未達と自腹購入の違法性
労働基準法24条1項は、賃金の支払方法について次のように定めています。
賃金は、通貨で、直接労働者に、その全額を支払わなければならない。
(労働基準法24条1項・前段)
ノルマ未達を理由に会社が一方的に給与から天引きすることは、この全額払いの原則との関係が問題になります。同項ただし書は、法令に別段の定めがある場合や、労働者の過半数で組織する労働組合等との書面による協定がある場合に、賃金の一部を控除して支払うことができると定めています。これに当たらない控除については、根拠があるかを確認することになります。
いわゆる「自爆営業」(達成できなかったノルマ分の商品を自分で買い取る、契約する)についても、会社側が強要していれば問題です。表向きは「自主的な購入」とされていても、実質的に拒否できない状況で行わせている場合、自主的な購入とは評価しにくくなります。心当たりがある場合は、購入時のやり取りや上司からの指示を記録・保存しておくと、後で相談する際に役立ちます。
整理するときは、①「1件未達につきいくら」と負担額が決められているケースと、②実際に給与から差し引かれているケースを分けます。①は労働基準法16条、②は上の24条1項との関係が問題になります。
使用者は、労働契約の不履行について違約金を定め、又は損害賠償額を予定する契約をしてはならない。
(労働基準法16条)
16条が禁じているのは、あらかじめ違約金や賠償額を定めておくことです。実際に生じた損害の賠償請求そのものを禁じた規定ではないため、「賠償の話が出た=違法」とは言えません(退職で損害賠償を請求されるのか)。
詰め文化とパワハラの線引き
営業職では「詰め」と呼ばれる厳しい叱責が日常的な文化になっている職場もあります。しかし労働施策総合推進法30条の2第1項は、職場における優越的な関係を背景とした言動であって業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより労働者の就業環境が害されることのないよう、相談体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じることを事業主に義務づけています。人格を否定する発言を繰り返す、長時間にわたって叱責し続けるといった言動は、指導と同じには扱われない可能性があります。「営業なら厳しいのは当たり前」という空気に流されず、行き過ぎた言動については記録を残しておきましょう。
社内の窓口が機能していない場合は、総合労働相談コーナーに無料で相談できます。眠れない、食欲がないといった状態が続くときは、我慢の量で判断せず医療機関を受診してください(厚生労働省「こころの耳」/限界のサイン)。
営業職でよくある引き止めと、考え方
| 言われやすいこと | 整理の仕方 |
|---|---|
| 「今期の目標が終わるまでは無理」 | 民法627条1項は目標の達成状況を条件にしていません。期の区切りは調整の材料にはなっても、退職できない根拠にはなりません。 |
| 「お客様に迷惑がかかる」 「後任が決まるまで待ってほしい」 | 顧客の割り当ても採用・配置も会社の責任です。引き継ぎ資料を残せば、できることは果たせます。 |
| 「育てた分の研修費を返せ」 | 費用返還の取り決めが労働基準法16条との関係でどう評価されるかは、契約の内容や実質により判断が分かれます。金額と根拠を書面で示してもらってください。 |
引き止め全般は退職の引き止めへの対処、退職届を受け取ってもらえない場合はこちらを参照してください。有給休暇は労働基準法39条5項により労働者が請求する時季に与えるのが原則で、退職日以降には「他の時季」が存在しないため、退職直前の消化に時季変更権を行使する余地は限られると一般に解されています(有給消化の拒否)。
歩合給・残業代の未払いがないか確認する
営業職は直行直帰や外回りが多く、労働時間の把握があいまいになりやすい職種です。退職後に資料を求めるのは手間がかかるため、辞める前に給与明細・勤怠記録・就業規則の該当箇所を手元に残しておいてください。
時間外・休日の労働に対する割増賃金は労働基準法37条1項に定めがあり、支払うべき率は「政令で定める率以上」という形で決まります。固定残業代や歩合給が組み込まれていても、それだけで割増賃金の支払いが不要になるわけではありません。手当が何時間分にあたり、超えた分が別途支払われているかを確認してください。
賃金の請求権の時効は、労働基準法115条では5年ですが、附則143条3項により、退職手当を除く賃金は当分の間3年として扱われます。未払いの心当たりがある場合は労働基準監督署に相談してください。
引き継ぎ資料の作り方
円満に退職するためには、引き継ぎ資料を整理しておくことが有効です。次の情報をまとめておくと後任がスムーズに業務を引き継げます。
- 担当顧客の一覧と、それぞれの関係性・注意点
- 進行中の商談・案件の状況とネクストアクション
- 過去のやり取りの経緯(メール・議事録などの保存場所)
- 使用している社内ツール・フォルダの場所
これらを残しておけば、口頭での引き継ぎが不十分だと後から言われるリスクも減らせます。営業職では、手順より「なぜその判断をしたか」(値引きの経緯、先方が誰の判断で動くのか、過去に問題になった論点)を残すほうが役に立ちます。
返却するものも早めに洗い出します。社用車と鍵、ETCカード、社用スマートフォン、名刺、顧客データの入った端末、制服、社員証など。渡した日付と相手を記録しておくと、あとで確認が必要になったときの材料になります(私物・貸与品の返却チェックリスト)。
退職代行を使う場合に確認すること
会社との直接のやり取りが難しければ、退職代行の利用も選択肢です。ただし運営主体によってできることの範囲が異なり、その背景にあるのが弁護士法72条です。
弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。
(弁護士法72条)
条文に「交渉」という語はありませんが、「代理」「和解」「その他の法律事務」に交渉が含まれると一般に解されています。他方、ただし書の「他の法律に別段の定めがある場合」が、労働組合による団体交渉を許容する根拠とされています。営業職では未払いの歩合給や費用返還といった金銭の争点が同時に出やすいため、「連絡を伝えてもらえば足りるのか」「金額の話し合いまで必要なのか」を先に切り分けておくと選びやすくなります。
運営主体ごとの違いは退職代行の選び方まとめ、各社の料金は料金データベースで確認できます。掲載順は提携の有無に影響されません。
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参考文献
- 民法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(627条1項・628条)
- 労働基準法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/322AC0000000049(16条・24条1項・37条1項・39条5項・115条・附則137条・附則143条3項)
- 労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/341AC0000000132(30条の2)
- 弁護士法(e-Gov法令検索)https://laws.e-gov.go.jp/law/324AC1000000205(72条)
- 厚生労働省「総合労働相談コーナーのご案内」https://www.mhlw.go.jp/general/seido/chihou/kaiketu/soudan.html
- 厚生労働省「こころの耳」https://kokoro.mhlw.go.jp/
最終更新:2026年8月

